留三郎、そう俺の名を呼ぶ声に作業の手を止めて顔を上げた。

そこには伊作が居て、どうしたかと問えば「委員会で使う桶の修繕を頼みたくって」と申し訳なさそうに言う。
そのくらいお安い御用だ、とあいつの持っていた桶を預かるがその場から動かないから、まだ何かあるのか聞こうと口を開こうとすると伊作は伏せていた目を上げた。
「いつも忙しいのに、仕事増やしちゃってごめん」　
そんなこと、と言おうとしていつもと少し違う様子に、一つ息を吐いて真剣な表情のこいつの頭に手をやった。

「良いか？お前がしっかり仕事してるのは知ってるし、故意に壊してるんじゃないから迷惑だとは思っていない。お前の仕事が治療なら、俺の仕事は壊れた物を治すことだ。…だから、俺が怪我したときはよろしく頼む」
そう言ってぐしゃぐしゃ、と頭を掻き回せば勢いで少し前のめりになった伊作を受けとめる。離れたあとに上げられた顔はいつもの柔らかい表情に戻っていて、少し顔が赤くなったのは気付かれていないだろう。

[1回]